想いはひとつ“おいしいごはんを
毎日手軽に楽しめる暮らしを届けたい”

「小滝集落」×「ギンザのサヱグサ」×「かまどさん電気」




震災を乗り越え、300年受け継いできた米作りを続ける小滝集落




新潟県との県境。長野県北部に位置する栄村小滝。毎年3mを越す深雪地帯に、わずか13世帯が暮らす小さな集落は2011年3月12日の長野県北部地震により、稲田の7割が壊滅的な被害を受け、集落の存続も危ぶまれました。しかし、小滝の人々は「小滝集落をさらに300年後まで引き継ぐ」というビジョンを掲げ、復興プロジェクトを立案。その軸となるのが、米作りの復活でした。
「震災があって、この集落を失わずにやっていけるんだろうか?って絶望しました。でもそんなとき、なんでこの集落はここに存在していたんだろう?って考えたんですよ。小滝は300年以上も前から米作りをしてきたことで成り立ってきた。暮らしの営みなんだよね。その営みが狂ったら集落も壊れてしまう。だったら祖先から継いだ大事な田んぼを守ろう、米作りをしよう。これが集落を再建させる一番の大切なことだとみんなで話し合い、再開したんです」と復興プロジェクトの代表も務める樋口正幸さん。


<(合)小滝プラス代表 樋口正幸さん>


小滝米で震災からの復興を決意

収量が少なく、市場販売することのなかった小滝米だが、「お米作りを復活させても、いままでのやり方では復興はままならない。自分たちが田んぼを守り、想いを込めた米作り、そのやりがいをきちんとした対価にしようと決意しました。JAなど系統販売に頼らず、自らの手で小滝の米を売ろう、知ってもらおうって決めたんです。米のおいしさにはもちろん自信はありますが、売り方もわからない。米の値段のつけ方も知らない。手探り状態ですよ。最初は軽トラでお客さんの目を引く野菜や山菜と一緒に売って。東京で開催される物産展に行った時には、周りは魚沼産コシヒカリが、飾り立てられてキラキラしていました。でもうちは自分たちで作った素朴なシール貼っただけ。それでも小滝米の良さに気づいてもらって、大きいビジネスにつながるような話もあったんだけれど、もしそれが実現したらどうしようって逆に萎縮してしまったりしたこともありました」。



「ギンザのサヱグサ」との出会い

明治2年創業の子ども服の老舗「ギンザのサヱグサ」が、小滝に関わるようになったのは偶然だった。サヱグサは、「将来を担う子どもたちのために」という想いで、2012年にプロジェクトを立ち上げ、環境保全や自然教育に取り組んでいて、2014年のスタートを目指していた自然・里山体験キャンププログラムの開催地を探す中で出会ったという。「それまで各地を十何箇所も回っていましたが、小滝を訪れた瞬間、あぁ、ここだ!と。千曲川が流れ、棚田があって、手つかずの自然が残り、そこに昔ながらの人の営みがある。日本の原風景だな、子どもたちを連れて来たいなと思った」と、そのときの感動を語る社長の三枝亮さん。キャンププログラムの打ち合わせなどで通うようになって、小滝の人たちと触れ合い、そして小滝米の存在も知ったのだそう。「食べたら、衝撃的においしかったんですよ。何にでも合うし、冷めてもおいしい。少し持って帰って家族や知人に食べさせても、誰もが驚くほど感動してくれたんです」。


<左:(合)小滝プラス代表 樋口正幸さん、右:株式会社ギンザのサヱグサ代表取締役社長 三枝亮さん>


小滝米「コタキホワイト」のおいしさの源は国内でも希少な黒ぼく土!

小滝の土壌は、良質な農作物を作る上で重要な有機物の腐植を50cm以上堆積した黒ぼく土。



国内でも希少な土壌環境に加えて、小滝の用水は300年以上前に先人たちが山の斜面を削って造成した土壌むき出しの小滝堰から運ばれてきている。土壌に含まれるミネラルやケイ酸(シリカ)が雪解け水の中に溶け出し、田んぼに注がれているのだ。それが小滝米のおいしさの最大の理由。



「KotakiRice&Future」と冠した「コタキホワイト」誕生




美しい里山の風景にふれ、その歴史や文化を知り、自ら復興プロジェクトを立ち上げて米作りに真摯に向き合う小さな集落の情熱に触れた三枝さんは、これほどまでに素晴らしい小滝の再生と里山継承のお手伝いをしたい、そしてその自慢のおいしいお米をもっと広く知ってもらいたいと、子会社である株式会社サヱグサ&グリーン内に「コタキ ライス&フューチャー事業部」を立ち上げ、小滝米の再ブランディングと販売事業を開始。小滝米を「コタキホワイト」と命名し、ワインボトルに詰める斬新なアイデアを打ち出した。「お米はワインと同様に産地や風土、気候によって味わいが異なるし、劣化しないよう空気に触れずに保管させることも重要。それがワインボトルのアイデアに繋がったんです。初めて大口の注文が急に入った時は手が足りなくて、友人たちを引き連れみんなで瓶詰めもしましたよ。寒い日で石油ストーブつけていたんだけれど、結露のせいでシールが剥がれしまったりして(笑)。凍えて指先も震える中、作業をしましたね。伝票も手書き。そのとき集落のおばちゃんが大根煮を持ってきてくれて。本当にあったかくて美味しくて。大変な思いをして、宅配業者のトラックに詰め終えたとき、全員で『いってらっしゃい!』って手を振って見送ったことが今でも鮮明に記憶に残っています」。


< 株式会社サヱグサ&グリーン コタキライス&フューチャー事業部長 近藤宏彦さま>


「小滝米」が変えた小滝集落

2015年、本格的なお米事業に向けて、小滝の全13世帯が出資し「合同会社小滝プラス」を設立。「サヱグサ&グリーン」は商品の製品化から出荷までの作業と在庫管理を依頼しパートナーシップを結んでいる。「最初は、全世帯なんて無理だと思った。でも長老が『そんなにおいしいって言ってもらえて、世の中につなげていってくれるならやるべきだ』と。みんなもそうだそうだって賛同してくれました。小滝のいいところは、ひとつのことをやろうとしたときに、全員が同じ方向を向くんです。足を引っ張る人がいないんですよね。だから、ますますおいしい、安全で安心なお米作りに励もうって一丸となる。小滝の人たちがパートして働けるような仕組みはもちろん、三枝さんや近藤さんと新しい取り組みをしていたりすると、なんかおもしろそうなことやっているなって村から離れた若者が帰ってきたり。俺たちの後を継いでくれる人たちがいると思うと、またそれがやりがいになる。12月1日を復興の日としてちょっとしたイベントをやっているんです。小滝の人たちが戻ってきてゼロからスタートした日の記念として。ちゃんと歩んでいるって確信しあう日であり、震災ボランティアなどでお世話になった方にその姿を見せることが少しでも恩返しになればと思っています」。

かまどさん電気で炊いた小滝米




300年先に継ぐために人との交流も大事なこと。築200年ほどの古民家を再生した宿泊施設も復興プロジェクトのひとつとして行っている。おいしいお米を食べてもらおうと施設には「かまどさん電気」が常設されている。
今までは各自宅にある炊飯器で味を見ていたため、バラバラの指標になっていたが、本当においしいごはんを炊き上げるかまどさん電気で味を見るべきだと施設に常設することに。
「これがお米が立っているっていうことなんだって思わず家に持って帰って、とにかく見てって息子の嫁に見せました。米の立ち具合に驚嘆したのはもちろん、普通の炊飯器で炊いたときより、口の中がなめらか、お米の食感がすごくいい。小滝の米は、もちもち感と粘りがあるのが特色だけど、それが際立ってよりおいしく感じましたね」と樋口さん。



その後、集落のおばあちゃんたちにもその話をしたそう。「とにかく蓋を開けたときの感動を伝えました。おばあちゃんたちは薪と羽釜でご飯炊くのが日常だったから本当においしいごはんがわかっている。長老たちの反応がいまから楽しみだね」。


「かまどさん電気」が引き出す「小滝米」の実力

仕事を終えた小滝の方々が、続々と古民家に詰めかけて会食がスタート。採りたてのミョウガやナス、手作りのくるみ味噌など地元の食材と供にお酒も進み、いよいよ炊きたてのごはんをお披露目。蓋を開けた瞬間「え、米が一粒一粒立っているよ!」と一同顔を見合わせ、歓喜の声。













「古米はツヤがあまりなくなるのに、新米みたいな光沢」
「香りともちもち感が違うね」
「1粒1粒がふっくらしていて、米の味わいが十分に出ている」
「小滝の米は甘さがじゅわ〜っと出てくるぶん、寿司飯には向いてないと思っていたけど、この炊き加減は水分が絶妙に抜けて寿司もいけるね」
「昔はもみがらでごはんを炊いていて火力が大切なんだけれどね。そのときのご飯の粒と一緒だな」
「かみさんがOKしてくれたら買おうかな・・・」。
かまどさん電気で炊いたごはんの感想を口にし、あっという間に1台は空っぽに。もう1台のごはんはおにぎりにして、さらにみなさんに食べていただくと、「やっぱり小滝の米は冷めてもおいしいね。でもこの炊き方だと米1粒にちょうどいい水分が入ってしっとりした出来栄えで、いつもよりおいしいかも」
「この中蓋のつまみ、持ちづらいから改良した方がよいね」「素手で持てるようにした方がいいんじゃない」といつまでもごはんの話で盛り上がりました。

真摯に米作りに向き合う小滝集落。そのお米に惚れ込んだ「ギンザのサヱグサ」。そして彼らが認めてくれた「かまどさん電気」。三者立場は違えど、“おいしいお米、ごはんをもっと多くの方に届けよう”との想いがより一層強まりました。

鳥と虫の声、水の流れ、風で揺れる木々の音。黄金色の稲穂と美しい棚田。雄大な自然と里山の空気感に包まれ、あったかい小滝の人々との触れ合いは、失ってはならない自然や文化、心の豊かさにあらためて気づかされる旅となりました。お米をはじめ、日本の宝物を300年後、いえ、さらなる未来へと継ないでいく。いま生きている私たちは心に刻んで向き合い、その使命を果たすべきなのではないでしょうか。


(文:吉浦由子、写真:小出和弘)